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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)609号 判決 1968年8月27日

上告人

竹鼻豊五郎

右代理人

寺井俊正

被上告人

羽栗麻美子

右法定代理人親権者母

羽栗初子

右代理人

杉島勇

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人寺井俊正の上告理由第一点について。

身分上の行為は、原則として法定代理人が代理して行なうことはできず、無能力者であつても意思能力があるかぎり、本人が単独でこれを行なうべきものであり、これに対応して、人事訴訟については訴訟無能力に関する民事訴訟法の規定は適用がないものとされているのである。したがつて、未成年の子も、意思能力がある場合には、法定代理人の同意なしに自ら原告となつて認知の訴を提起することができるものであり、このことは人事訴訟手続法三二条一項、三条一項の規定に照らしても明らかである。しかし、他方、民法七八七条は子の法定代理人が認知の訴を提起することができる旨を規定しているのであり、その趣旨は、身分上の行為が本人によつてなされるべきであるという前記の原則に対する例外として、法定代理人が子を代理して右訴を提起することをも認めたものと解すべきである。また、人事訴訟手続法も、無能力者については当事者本人が訴訟行為をすることを原則としてはいるが、法定代理人の代理行為をまつたく許していないものとは解されない。そして、このように法定代理人が子を代理して認知の訴を提起することができるものとすることによつて、子に意思能力がない場合でも右訴の提起が可能となるのであるが、子に意思能力がない場合にかぎつて法定代理人が右訴を提起することができるものと解することは、子の意思能力の有無について紛争を生じ訴訟手続の明確と安定を害することになるおそれがあつて、相当でなく、他面、子に意思能力がある場合にも法定代理人が訴訟を追行することを認めたからといつて、必ずしも子の利益を実質的に害することにはならないものと解されるのである。したがつて、未成年の子の法定代理人は、子が意思能力を有する場合にも、子を代理して認知の訴を提起することができるものと解するのが相当である。

してみれば、被上告人の法定代理人母羽栗初子が被上告人を代理して提起した本件認知の訴は、その提起当時満一四才九ケ月であつた被上告人が意思能力を有していたとしても、なお適法なものと認めるべきであつて、その前提に立つて本案判決をした原審の措置に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

同第二点について。

原判決(およびその引用する第一審判決。以下同じ。)は、被上告人の母羽栗初子が懐胎可能の期間である昭和二三年六月中旬から同年八月中旬まで上告人と情交関係を継続した事実、そのころ同女が上告人以外の男と情交関係を結んだことのない事実、鑑定の結果から得られる血液型ならびにその他の身体上の形態的観察においても上告人と被上告人との間の父子関係の存在を否定する根拠はない事実を認定し、右各事実を総合して、被上告人が上告人の子であることを認めているのであつて、右事実認定は原判決挙示の証拠に照らして正当として是認することができ、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。論旨は、原審の専権に属する証拠の採否の不当をいい、証拠の取捨判断および右事実認定を非難し、また、右認定と異なる事実に立脚して原判決の判断の違法を主張するものであつて、採用することができない。

よつて、民事訴訟法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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